僕らは何者でもないのさ

多すぎ大人の選択肢

Perfumeが「TOKYO GIRL」を名乗った日

Perfumeは広島からやってきた。全員が広島県出身、アクターズスクール広島に通っていた女の子3人が集まったアイドル、それがPerfumeだ。

最初はパッとしなかったが、プロデュースに中田ヤスタカを迎えてからは、けっして派手ではない女の子たちがサイボーグのごとく歌い、踊り、そして音楽が止まれば普通の女の子たちより何倍も女の子らしい姿に戻る、というギャップで虜にしてきたのだ。

彼女たちの転機は3回ある。

 

1つは、もちろん中田ヤスタカという、エレクトロな音質で必ず虜にさせる音作りのできる人材に出会ったこと。

2つめは、「ポリリズム」が公共広告に用いられて、露出が増えたこと。

3つめはというと、「ポリリズム」のつぎに出した6thシングル「Baby cruising Love/マカロニ」だった。


[MV] Perfume「Baby cruising Love」

それはヒットという見方でいっても転機であった、このシングルがオリコン3位に入ってからは22nd「STAR TRAIN」の前作まで(オリコン4位)16作連続でオリコン最高位3位以内に入った。(「STAR TRAIN」は個人的に名曲だと思うので悔しいのだが)


[MV] Perfume 「STAR TRAIN」

そして、このシングルにはもう一つの転機の意味がある。それは中田ヤスタカ意図的に「女の子」へと方向性を振ったことだ。「ポリリズム」まではいわば、3次元ボカロというところだった。ラブソングを歌ってもそこに現実感はなかった。

 

くり返す このポリリズム

あの衝動は まるで恋だね

(中略)

ああプラスチック みたいな恋だ

またくり返す このポリリズム このポリリズム

(中略)

ほんの少しの 僕の気持ちが

キミに伝わる そう信じてる

(「ポリリズム」より )

 

そもそもが、ラブソングにも見えるし恋愛を題材にほかのことへ主題を置いているように見える。そして、何よりそこには出会いまでしか、物語は存在しない。それはその以前の曲にも当てはまる。「セカイ系」の始まりのような、終わりのような、そんな形で歌詞は閉じていく。

 

そして、「Baby cruising Love」。何だって、タイトルからして“Love”だ。

 

恋の運命は 愛の証明は

二人の航海と 何かが似ているかもね

(中略)

簡単な事って 勘違いをしていたら

判断誤って 後ろを振り返るんだ

(中略)

ハッとして気が付いたら

引き返せないほどの距離が

ただ前を見ることは 怖くて しょうがないね

(「Baby cruising Love」より)

 

一番最初から、この曲の主題は「恋から愛へ」ということが明確に提示される。そして、歌詞から想起させる「二人」の関係性がいままでの出会いに気づくところから、別れに近いところまで進行している。

いままでの、“アイドルだったPerfume” は不特定多数の「まだ出会ったことのないあなた」を歌うことで、目の前の観客(オタク)を恋人に仕立て上げてきた。しかし、この曲からは特定的な「ずっと思っているあの人」という存在に言及するようになるのである。

それは男性からすれば、彼女たちが疑似恋愛対象としては遠のいていくことになる一方で、女性に対しては自分を重ねて、Perfume=うまくいかないけど頑張っている理想のアタシ」という物語を提示することに成功した。

もともとPerfumeという存在は広島からの上京物語を根幹に据えていて、その感覚を今でも維持し続けているのが特徴的だ。アメリカのフェスでどんなに沸かせようが、全世界版iPhoneのCMに出演しようが、いつまでも中身は普通の女の子。歌えば、彼氏と最近うまくいかないんだよね、仕事って大変で嫌になっちゃうよね、みたいなことを口にする。稀有な存在から「東京で働いて、恋して、どこか夢見がち、私たちの生活と同じじゃん!」という「発見」を聴く側に提示してあげるというギャップがウケてきたのだ。

もちろん、ヤスタカ秘伝のゴリゴリのエレクトロサウンドも、オタクとは違う形で男性リスナーを繋ぎ留めることに貢献している。でも、「アイドル」一言で片づけられない魅力は同性からの支持によって作り上げられているという感じだ。

 

この話、ここからが本題なのだが。

いままでは、Perfume自身がその「恋して、働いて」の共感性に、積極的に言及することはなかった。そんなとき現れたのが今季なかなか好評のドラマ「東京タラレバ娘」である。

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運がよかったのか、悪かったのか、このドラマはPerfumeが「Baby cruising Love」以降に提示してきた共感性、とガッツリ一致するという作品。そうなれば、主題歌もどうぞ、となる。それで、作られた主題歌が「TOKYO GIRL」。


[MV] Perfume 「TOKYO GIRL」

まさに「東京で~」な女の娘

自分自身で「あなたたちのために作った曲です」と言及してしまった。

見方によっては、これは媚である。媚びられると人間、不思議と冷めてくる。なぜなら、そこには聞く側の主体性がないから。いままでは、聞く側が共感性を「発見」してきた。それがいま、向こうから与えられることになったとき、これまでのギャップはうまく機能するのか。

リスナーはわがままな生き物だ。

 

COSMIC EXPLORER

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 でも、Perfumeは大好きです。